【美味しんぼ考察②】ポン酢とは何か?言葉の意味と海原雄山の本心
寒い季節にぴったりの食事といえば「鍋料理」ですね。その鍋を食べる時に欠かせないのが「ポン酢」という調味料。でも「ポン酢」のポンってどういう意味か不思議に思ったことはありませんか。
今回はマンガ「美味しんぼ」のエピソードをもとに、ポン酢の本当の意味と歴史について考察していきます。
※この記事は音声でもお楽しみいただけます
参考文献:美味しんぼアラカルト15〜ポン酢の秘密(小学館)
参考文献:美味しんぼ 第67集(小学館)
海原雄山はポン酢の秘密を知っている
まずは1998年発売の美味しんぼ第67集に収録されている「ポン酢の秘密!?」前後編のエピソードを見てみましょう。
美味しんぼアラカルト15より
このシーンでは、主人公の山岡さんたち東西新聞社のメンバーが、読者に家庭でも応用できるプロのコツを紹介する料理記事を作成するところから始まります。その中で「鍋料理」のコツを記事にするために、相撲部屋へ取材することになります。そこで出された「タラチリ」を食べる時に、後援会の役員2名がポン酢の素材としてスダチとカボスのどちらが良いかという口論が発生します。
それを説得する山岡さん。結局、ポン酢には「ダイダイ」が一番使用されていることを説明して一件落着。しかしそこへ海原雄山氏が登場する。得意げにポン酢の説明する山岡さんに対して「ポン酢のポンとはなんだ?」と問いかける。それに対して答えを出せない山岡さんに「人の命と健康に関わる、食べ物を扱う資格はない」と厳しい言葉を浴びせる。そして山岡さんたちのとった行動は・・・。
というストーリーになっています。
美味しんぼアラカルト15より
海原雄山氏の厳しさと、その反面の優しさが見てとれる1シーンでもある。「来週の講演会の会合で説明してもらう」というセリフを言い残し去っていく様は、師匠が弟子に対して「もっと精進せよ!」と激励しているかのようですね。
それでは本題の「ポン酢のポン」について考察していきましょう。
ポン酢の歴史と本当の意味
- もともとは17世紀以前に誕生した西ヨーロッパ・イギリスの飲み物だった(ポンチ・パンチ)
- その製法は、イギリスの東インド会社の船員がインドから持ち帰った説がある
- その原型は、蒸留酒(アラック)・砂糖・レモン・水・紅茶(香辛料)からなるカクテルである
- 名前の由来は5つの材料からできたことによりパーンチと呼ばれていた
- パーンチとはヒィンディー語(インドの公用語)で5種類という意味である
- その後、オランダに伝わる
- 江戸時代、オランダ商船などにより日本に伝わる
- ポンチ(punch)をオランダではポンス(pons)と呼んでいた
- 日本にはポンスとして伝わる
- 日本では薬用としてポンスやポンスシロップが販売される
- 柑橘系の果汁を使用していることから、ポン酢と呼ぶようになる
以上がポン酢が日本におけるポン酢の歴史です。ポン酢はポンスという外来語から来ていたんですね。そして酸味があることから、スを酢と言い換えたのは日本らしい解釈の仕方だなぁと感じました。
ポン酢の素材に共通する謎
さてここで気になるのが、ポン酢の主役「柑橘類」です。美味しんぼの作中では、カボスやスダチ・ダイダイなどが登場していましたね。そして本家インドではレモンを使用しています。これらに共通しているのは何でしょうか?
それぞれの作物としての特徴を見てみましょう。
- レモン:ミカン科ミカン属、インド・ヒマラヤ原産
- ユズ :ミカン科ミカン属、中国長江原産
- スダチ:ミカン科ミカン属、中国長江・日本原産
- カボス:ミカン科ミカン属、中国長江・日本原産
- 橙 :ミカン科ミカン属、インド・ヒマラヤ原産
このようにポン酢に使用されている柑橘類は、すべてミカン科ミカン属の植物です。そして原産地もインドから中国のヒマラヤ山脈を中心とした地域の作物になっている。レモンや橙はインド・ヒマラヤが原産ですが、どちらも中国を経由して日本に来ています。
これらの柑橘類は香酸柑橘(こうさんかんきつ)と呼ばれ、酸味が強くて生食には向いていないため、果汁をメインにジュースや調味料として使用しています。
参考:果物情報サイト・果物ナビ
そして香酸柑橘にはある共通した健康作用もあると期待されています。
ポン酢と柑橘類のすごい栄養
先ほどポンスは薬用としても使用されていることが判明しました。その理由は果汁の酸味成分と香酸柑橘類の皮に含まれるフラボノイド系の成分が関係しています。
クエン酸などの有機酸は疲労回復促進や美肌効果などが期待されている。また果皮に含まれるフラボノイド系は腸内の環境を整えたり、抗動脈硬化などの研究も進んできています。またカルシウムの吸収を助けることにも期待されていることも話題になっていました。みかんの皮を乾燥させた漢方に陳皮というものがありますね。
そして何よりいずれの柑橘類も秋から冬が旬です。
ポン酢が合う鍋料理は「ちり」
鍋料理について考えてみましょう。冬の寒い時期に旬を迎える魚の中でもポン酢に合うのは白身魚でしょう。なぜ赤身魚よりも白身魚の方がポン酢に会うのか考察してみます。
まず、白身魚と赤身魚の違いについてです。基本的には魚の筋肉や血液に含まれる色素タンパク質量がどのくらいなのかで決まる。色素タンパク質とはヘモグロビンとミオグロビンの2種類があり、魚の体内に酸素を運搬・供給する役割をしています。
- 白身魚=色素タンパク質量が100g中10g未満
- 赤身魚=色素タンパク質量が100g中10g以上
基本定義はありますが簡単にいうと、シャケとタラのように見た目で判断することが多いですね。
ここで鍋料理としての大きな違いは何かというと、加熱した時の食感と味わいでしょう。白身魚は湯通しなど加熱をするとプリプリとした食感になる。そして味は赤身魚に比べて淡白です。
寒い季節に旬を迎える白身魚には脂がノっています。淡白さと脂っこさ、そして食感がポン酢の酸味と醤油の旨みにピッタリなのではないか。私はそう感じています。
ちなみに、フグやタラの鍋料理のことを「てっちり」「タラチリ」と言いますが、これは加熱した時にチリチリになる様を「ちり鍋」と呼んでいるからです。
旬の食材が美味しい理由
美味しんぼ「ポン酢の秘密!?」より
今回は美味しんぼ「ポン酢の秘密!?」から考察してきました。wikipediaのない時代に、これだけのことを調べ上げて作品を制作したことは、本当にすごい情熱をかけていると感じました。心から尊敬してしまいます。
海原雄山氏の言葉には厳しさと優しさが同居していますね。作中の山岡さんになったつもりで色々調べると、新たな発見や教養がつきます。そして食への好奇心が食材へのリスペクトになるのではないか。そう感じました。
自然が育ててくれた恵を味わうには知識と感謝、そして愛情が大切だと思わせてくれるエピソードでした。